令和五年度 伊東豊雄氏講演会「建築って何だろう」

2023年10月3日、「建築って何だろう」と題した伊東豊雄氏による講演会が総合理工学部棟多目的ホールにて行われました。講演会には建築デザイン学科に所属する学生の他、一般聴講者も多く参加しました。伊東さんの建築に対する姿勢や現代社会に対する建築の在り方について、現在起こっている問題やご自身が設計された作品を通してお話していただきました。

建築とは社会を考えること

非常にタイムリーな話題である神宮外苑の再開発について伊東さんの意見をお聞きし、今一度建築が社会に与える影響を考え直さなければいけないと強く感じました。また、高いビルが立ち並び生活までもが均質化されている東京や東日本大震災後につくられた巨大な防潮堤についても触れられ、自然と分離され機能だけが求められた空間や生活文化が育まれてきた環境を人々が失うことによって、日本全体が同じような町になってしまうのではないかという危機感を会場全体で共有できたように思います。
日本人が営みの中で獲得してきた自然を尊重し自然を愛す生き方を通して、人間が人間らしく暮らすとはどういうことか、社会をつくっていく建築はどうあるべきなのかを考えていきたいです。

目指す建築の姿

伊東さんの目指す建築像には人との繋がり、心の安らぎ、生きる力という人間に対する大きなテーマがあります。このテーマのためには人を主軸に、しかし近代主義思想を超える考えが必要です。「もうひとつの家をつくること、部屋ではなく場所をつくること、うちにいても外にいるように感じられること」は、伊東さんが社会に対して感じているままならなさをできるだけ実現可能な形で解きほぐそうとした結果の思いであるように感じました。家と学校・会社の往復では息が詰まるようなことがあったり、機能だけがある部屋では人との繋がりが無くなってしまったり。今の社会に流布する個を尊重しすぎた風潮から少し離れ、人は支えあい繋がりながら生きるべきだというような主張にも受け取れました。
このような人の複雑さや感情を受け止めようという考えが、近代主義的な人の活動を抽象化することで得られる機能性による人に快適さを与えるだけではない、人に寄り添う建築をつくっているのだと思います。

講演会の終わりには、
設計段階では利用者の顔が見えない公共建築において人が繋がる場をつくるために何を重視したのか
初期の住宅建築からその後の大規模公共建築に受け継がれたことはあるのか
といった質問が上がりました。
それぞれ
「人が集まるのかは設計に込めた信念やより良い建築を目指した形が人々に共感されるかどうかであり、オープンするまで自分でもわからない。今までのものは結果として人が集う建築となった。」
「当時の建築家同士のせめぎ合いの中で培われた他への強い闘争心を動力に、流行に流されずに自分の建築理念とかを育んでいった結果、今のスタイルに繋がった。そのため闘争心や興味など、建築に対する熱意を高めて建築と向き合うことが大切。」
という答えを頂きました。

終わりに

伊東豊雄さんの講演会は学生だけでなく、多くの方にとって大変貴重な機会となりました。
伊東さんに対する最後の質問では、建築を志すことが辛くなることがあるという学生の本音も聞こえてきました。自分の進路に悩み一人で不安を抱えることに対して、建築は一人でつくるものではないとエールを送っていただき、大きな励みになったことと思います。
最後になりますが、ご多忙、遠方の中お越しいただきました伊東豊雄さん、この機会に際しましてご協力いただきました島根県建築士会、日本建築家協会中国支部島根地域会の皆様、この度は誠にありがとうございました。この場をお借りいたしまして深く感謝申し上げます。

3年 庄野那奈・田中佑妃乃